2011年10月2日日曜日

はじめに


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※お断り: 当ブログ上に掲載する訳はあくまでも暫定訳であり、
出版される際にはさらに訂正・修正が加えられる可能性があります。
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本書執筆の第一の目的は、チェルノブイリ大惨事の影響を観察し、記録によって証拠づけた研究者の研究成果を、簡潔かつ系統立った形で提示することにある。私たちからみると、こうした分析の必要性は、2005年9月に国際原子力機関(IAEA)と世界保健機構(WHO)が『チェルノブイリ・フォーラム』報告として、『チェルノブイリの遺産――健康、環境、社会経済への影響、およびベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナ各国政府への勧告(未訳)』(The Chernobyl Legacy: Health, Environment and Socio-Economic Impact and Recommendation to the Governments of Belarus, the Russian Federation and Ukraine, 2nd Rev. Ed., IAEA, Vienna, 2006, 50pp.)を発表して広く宣伝して以来、とりわけ高まった。なぜならこの報告は、事故の影響に関して十分に詳細な事実を欠いていたからである。

IAEA/WHO による『チェルノブイリ・フォーラム』報告をきっかけとして、チェルノブイリ大惨事から20年を迎える前に、グリーンピース・インターナショナルの主導で、おもにベラルーシ、ウクライナ、ロシアの多くの専門家がそれぞれ、チェルノブイリの影響に関する最新のデータや出版物を提出した(下記リスト参照)。グリーンピース・インターナショナルはこれとは別に、数百ものチェルノブイリ関係出版物と論文も収集した。こうした資料はアレクセイ・ヤブロコフが長年にわたって集めてきたチェルノブイリ文献に加えられた。[ A. V. Yablokov (2001) : Myth of the Insignificance of the Consequences of the Chernobyl Catastrophe (Center for Russian Environmental Policy , Moscow) : 112 pp. (ロシア語)]

チェルノブイリ大惨事から20年を迎える直前の2006年4月18日、A・ヤブロコフ、I・ラブンスカ、I・ブロコフ共同編集『チェルノブイリ大惨事――人の健康への影響(未訳)』(The Chernobyl Catastrophe–Consequences on Human Health、グリーンピース(アムステルダム)、2006年、137ページ)が出版された。この書籍には紙幅の関係で、前述の資料のすべては収めることができなかった。それゆえ、もとの資料の一部は、I・ブロコフ、T・サドウニチク、I・ラブンスカ、I・ヴォルコフ共同編集『チェルノブイリ大惨事の被害者への健康上の影響――学術論文集(未訳)』(The Health Effects of the Human Victims of the Chernobyl Catastrophe : Collection of Scientific Articles、グリーンピース(アムステルダム)、2007年)として出版された。2006年にはチェルノブイリ大惨事から20年を迎えるのを記念して、ウクライナ、ロシア、ベラルーシ、ドイツ、スイス、米国などの国々で数々の会議が開催され、炉心溶融(メルトダウン)事故の影響に関する新資料を含む多くの報告が出版された。そのいくつかを下記に挙げる。

The Other Report on Chernobyl (TORCH) [ I. Fairly and D. Sumner (2006), Berli , 90 pp.]

Chernobyl Accident’s Consequences : An Estimation and the Forecast of Additional General Mortality and Malignant Diseases [Center of Independent Ecological Assessment, Russian Academy of Science, and Russian Greenpeace Council (2006), Moscow, 24 pp.]

Chernobyl : 20 Years On. Health Effects of the Chernobyl Accident [ C. C. Busby and A.V. Yablokov ( Eds.)(2006), European Committee on Radiation Risk, Green Audit, Aberystwyth, 250 pp.]

Chernobyl. 20 Years After. Myth and Truth [A. Yablokov, R. Brau , and U. Water mann (Eds .)(2006), Agenda Verlag, Munster, 217 pp.]

Health Effects of Chernobyl : 20 Years after the Reactor Catastrophe [S. Pflugbeil et al. (2006), Ger man IPPNW, Berlin, 76 pp.]

Twenty Years after the Chernobyl Accident : Future Outlook [Contributed Papers to International Conference. April 24–26, 2006. Kiev, Ukraine, vol. 1–3, HOLTEH Kiev].

Twenty Years of Chernobyl Catastrophe: Ecological and Sociological Lessons [Materials of the International Scientific and Practical Conference. June 5, 2006, Moscow, 305 pp. (in Russian)]

National Belarussian Report (2006). Twenty Years after the Chernobyl Catastrophe: Consequences in Belarus and Overcoming the Obstacles. [Shevchyuk, V. E, & Gurachevsky, V. L. (Eds.), Belarus Publishers, Minsk, 112 pp. (in Russian)]

National Ukrainian Report (2006). Twenty Years of Chernobyl Catastrophe: Future Outlook. [Kiev].

National Russian Report ( 2006 ). Twenty Years of Chernobyl Catastrophe: Results and Perspective on Efforts to Overcome Its Consequences in Russia, 1986–2006 [Shoigu, S. K.& Bol’shov, L. A. (Eds.), Ministry of Emergencies, Moscow, 92 pp. (in Russian)]

チェルノブイリ大惨事の影響に関する学術文献は、現在、スラブ系言語で書かれたものを中心に三万点以上の出版物がある。数百万もの文書/資料が、さまざまなインターネット情報空間に存在している――叙述、回想、地図、写真などである。たとえば GOOGLE では1,450万点、YANDEX では187万点、RAMBLER では125万点が検索できる。チェルノブイリに特化したインターネットポータルも多数あり、特に「チェルノブイリの子どもたち」とチェルノブイリ事故処理作業従事者(いわゆる「リクビダートル」)の団体のものが多い。ベラルーシとロシアの研究機関が数多く参加して、学術文献要約集『チェルノブイリ・ダイジェスト(未訳)』(Chernobyl Digest)がミンスクで出版され、1990年までの数千の文献が注釈つきで収録されている。一方、IAEA/WHOの『チェルノブイリ・フォーラム』報告(2005年)は、WHO と IAEA によって、チェルノブイリ事故の影響に関する「もっとも包括的かつ客観的報告」と喧伝されたが、取り上げられているのは英語文献を中心にわずか 350点にすぎない。

本書で取り上げた文献のリストは約1,000本に上り、スラブ系言語で書かれたものを中心に 5,000以上の印刷物やインターネット上の出版物の内容を反映している。とは言え、チェルノブイリ大惨事の影響を扱った論文のうちに本書で取り上げなかったものがあることを著者一同あらかじめお詫びしておきたい――すべての論文を網羅することは物理的に不可能である。

本書の各章の著者は以下の通りである。

・第1章 チェルノブイリ汚染――概観 (A・V・ヤブロコフ、V・B・ネステレンコ)

・第2章 チェルノブイリ大惨事による住民の健康への影響 (A・V・ヤブロコフ)

・第3章 チェルノブイリ大惨事による環境への影響 (A・V・ヤブロコフ、V・B・ネステレンコ、A・V・ネステレンコ)

・第4章 チェルノブイリ大惨事後の放射線被曝への防護( A・V・ネステレンコ、V・B・ネステレンコ、 A・V・ヤブロコフ)

最終的な原稿は著者全員で調整し、著者全員が観点を共有している。何点か編集上重要な点をあらかじめおことわりしておく。

1. 個々の事実は、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」によって長く認められてきた形式──段落ごとに番号をふった箇条書きの形式──で書かれている。

2. 「チェルノブイリによる汚染」「汚染」「汚染地域」「チェルノブイリの汚染地域」という語は、チェルノブイリ大惨事によって、放射性核種が降り注いだ結果、引き起こされた放射能汚染を意味する。「この地域の疾病の分布……」といった場合は、ある特定の地域の住民のあいだでの疾病の発生頻度を意味する。

3. 「大惨事」という言葉は、チェルノブイリ原子力発電所(ウクライナ)4号炉の爆発の結果、多量の放射性核種が大気中および地下水へ放出されたことを意味する。爆発は1986年4月26日に発生し、その後数日間、火災が続いた。

4.  放射能汚染に関する「弱い」「低い」「高い」「重度に」という 表現は通常、各地域の放射能汚染について公式に指定されたいくつかのレベルの違いを示す。「弱い」は1平方キロメートルあたり1キュリー未満(1平方メー トルあたり3万7,000ベクレル未満)、「低い」は1平方キロメートルあたり1〜5キュリー(1平方メートルあたり3万7,000〜18万5,000ベ クレル)、「高い」は1平方キロメートルあたり5〜15キュリー(1平方メートルあたり18万5,000〜55万5,000ベクレル)、「重度に」は1平方キロメートルあたり15キュリー以上(1平方メートルあたり55万5,000ベクレル以上)。

5. 「クリーンな地域」という用語は汚染地域に指定されていない地域を指す。ただし、大惨事直後の数週間から数ヵ月間、ベラルーシ、ウクライナ、ヨーロッパ側ロシア、ヨーロッパおよび北半球の大半で、事実上すべての地域が、チェルノブイリの放射性核種の降下物によって一定程度汚染された。

6. 汚染のレベル(量)は元の論文の記述にしたがい、1平方キロあたり何キュリーか(Ci/km2)または1平方メートルあたり何ベクレルか(Bq/m2)で表している。

本書の構成は以下の通りである。第1章では、チェルノブイリ事故によって放出され、おもに北半球に影響を及ぼした放射能汚染のレベルと特性を推定する。第2章では、チェルノブイリ大惨事による住民の健康への影響を分析する。第3章では環境への影響を実証する。第4章では、ベラルーシ、ウクライナ、ロシアに対するチェルノブイリの影響の過小評価について論じる。最後に全体を見渡しての結論と索引(オンラインでのみ利用可能)がある。

資料は膨大だが、本書に収めた情報ですべてが明らかになっているわけでは決してなく、新たな研究が発表され続けている。しかし、人類はこの史上最悪の技術災害がもたらした影響に対処する必要があり、それゆえこうしたデータを提示することにした。


本書が完成に近づいた2008年8月23日、ヴァシリイ・ネステレンコ教授が逝去された。教授はアンドレイ・サハロフと同じように偉大な人物であり、ソ連の移動式原子力発電所「パミール」の総設計技師や、ベラルーシ核センター所長としての原子力界での輝かしい職業的キャリアを捨てて、チェルノブイリの放射能の危険から人類を守る取り組みに生涯を捧げた。

アレクセイ・V・ヤブロコフ


*ポスト内で元文書にリンクを貼った文献について、各 URL は下記の通り。

『チェルノブイリ・フォーラム』報告として、『チェルノブイリの遺産――健康、環境、社会経済への影響、およびベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナ各国政府への勧告(未訳)』(The Chernobyl Legacy: Health, Environment and Socio-Economic Impact and Recommendation to the Governments of Belarus, the Russian Federation and Ukraine, 2nd Rev. Ed., IAEA, Vienna, 2006, 50pp.)
http://www.iaea.org/Publications/Booklets/Chernobyl/chernobyl.pdf

[A. V. Yablokov(2001) : Myth of the Insignificance of the Consequences of the Chernobyl Catastrophe (Center for Russian Environmental Policy , Moscow) : 112 pp. (ロシア語)]
http://www.seu.ru/programs/atomsafe/books/mif_6.pdf

A・ヤブロコフ、I・ラブンスカ、I・ブロコフ共同編集『チェルノブイリ大惨事――人の健康への影響(未訳)』(The Chernobyl Catastrophe–Consequences on Human Health、グリーンピース(アムステルダム)、2006年、137ページ)
http://www.greenpeace.org/raw/content/international/press/reports/chernobylhealthreport.pdf

I・ブロコフ、T・サドウニチク、I・ラブンスカ、I・ヴォルコフ共同編集『チェルノブイリ大惨事の被害者への健康上の影響――学術論文集(未訳)』(The Health Effects of the Human Victims of the Chernobyl Catastrophe : Collection of Scientific Articles、グリーンピース(アムステルダム)、2007年)
http://www.greenpeace.to/greenpeace/?p=708

• Twenty Years after the Chernobyl Accident : Future Outlook [Contributed Papers to International Conference. April 24–26, 2006. Kiev, Ukraine, vol. 1–3, HOLTEH Kiev].
http://www.tesec-int.org/T1.pdf

• Twenty Years of Chernobyl Catastrophe: Ecological and Sociological Lessons [Materials of the International Scientific and Practical Conference. June 5, 2006, Moscow, 305 pp. (in Russian)]
http://www.ecopolicy.ru/upload/File/conferencebook_2006.pdf

• National Ukrainian Report (2006). Twenty Years of Chernobyl Catastrophe: Future Outlook. [Kiev] 
http://chernobyl.undp.org/english/docs/ukr_report_2006.pdf.




<< 訂正 >>

※ 11月22日、下記の箇所を訂正しました。

「重大な」→ 「重度に」